雪の九州年越しツアー・前編

  波乱含みのスタートだ。23:50に東京駅八重洲南口を出る夜行バスに乗るはずが、酒宴に夢中になって乗り遅れた。氷雨が降る中、八重洲地下街へ降りる階段の途中でうずくまって夜を明かす。
  朝一番の列車で西へ向かうのだが、一晩分の遅れはどうやっても取り戻せない。メシ食う暇なし、観光する暇なし。写真は、タバコを吸いたくて途中下車した草薙駅。どうせ一本列車を遅らせても静岡で追いつく。それなら、人の少ない駅でのんびり列車を待った方がいい。
  どうやっても遅れを取り戻せないので、広島・徳山間だけ新幹線でワープすることにした。新幹線に乗るのなんて何年ぶりだろう……と思ったら、昨年乗ってるんだな(東北新幹線)。でも、700系に乗るのは初めて。700系、すごいね。自由席なのに、各座席に携帯充電用のコンセントがある。
  それにしても、深夜バス代3000円がパーになって、新幹線代3360円が加算(18きっぷ旅なので、乗車券から買い直さなければならない)。この出費は痛いなぁ……。
  幡生駅近くのサウナ「フリーダム」で一泊して、迎えた12/29の朝。ここからようやく駅そば巡りの旅が始まる。
  本日の1杯目は、小倉駅ホームのJFSが経営する店。出費を控えないといけないと分かっているのに、値の張る「スペシャルそば」なんぞを頼んでみる。どの辺が「スペシャル」なのかというと、梅干しが入っているんですな(天ぷらとレンゲの間にある)。近畿地方の駅そばでは梅干しのトッピングを扱う店も結構あるけど、九州では珍しい。関西風のつゆには結構合います。
  小倉でスイッチバックして、門司港駅へ。この駅、昨夏にも見に来たんだけど、そのときに撮った写真がPCクラッシュですべて失われてしまったので、再訪した次第。駅舎自体が国の重要文化財に指定されているレトロの街。いい味を出しています。
  ちなみに、写真では分かりにくいかもしれないけど、チラチラと雪が舞っています。この時点では、まさかこの後で大雪に見舞われて悲惨な目に遭うことなんて、想像する由もなかった。
  門司港駅構内には、かつての関門連絡船通路跡が保存されている。関門トンネルが開通するまでは、下関と門司港は船で結ばれていた。この時代に生きてみたかったという気持ちが沸々と湧いてくる。きっと、今よりも鉄道が賑わっていたんだろうな。
  門司港から博多方面へ向かう列車の車内。九州の人にとっては当たり前の光景なのかもしれないけど、我々関東人にとっては不思議な眺めだ。この吊革、円形に並んでいます。確かに、こう並べた方がより多くの人が吊革に掴まれる。首都圏の並行型だと、車内中ほどに立っている人は一切掴まれる場所がない。どうして、ラッシュの激しい首都圏の電車でこの「円形吊革」が採用されないのか。
  門司駅で途中下車。ホームにあった駅そば「北九州駅弁当」でまる天そばをいただきます。これを食べないと、九州に来た感じがしない。それくらいに、九州らしいメニュー。
  ちなみに、写真はありませんが、このそばを食べている頃、次第に雪が激しくなってきました。風も強くて、吹きっさらしの店で食べていると丼の中に雪が入る入る。雪中懐蕎麦も悪くはないけれど、やっぱり今の時代には露出店はあまり流行らないんだろうなぁと思わざるを得ない。
  続いて、戸畑駅。これまた九州らしいメニュー・ごぼう天そば。関東あたりでごぼう天そばというと、ほとんどが「ごぼうのかき揚げ」を乗せたものを指します。ところが九州では、ごぼう単体での天ぷらを乗せるのが主流。戸畑(写真)のように、スライスしたものを揚げている店もあれば、丸太状のごぼうを揚げる店もあります。麺やつゆの味を邪魔しないのは、スライス。ごぼうそのものを美味しく食べるなら、丸太。どちらも一長一短だなぁ。
  小倉に戻って、まだあまり探索が進んでいない日豊本線に入る。各駅で降りては駅前を散策してみるのだが、残念ながらさほど面白味のある駅はない。やっぱり、九州の大動脈は鹿児島本線で、日豊本線は「裏街道」なのだな。
  そんな中、南小倉駅付近で見つけた、カレーとラーメンが異様に安い店。残念ながらすでに年末休みに入ってしまっていて食べられなかったのだが、こういう店は一度入ってみないと気が済まないのが私の性分。来年、また来ます。
  新田原駅は、すでに正月ムードに染まっていた。駅出入口脇に、立派な門松が一対。まだ、3日ありますよ。鯉のぼりを4月中に出すとか、クリスマスツリーを12月上旬くらいに出すとかってのはあまり違和感ないんだけど、年内に門松が出るっていうのはちょっと違うような気がする。門松くらいは、元旦に出そうよ。
  別府駅に到着。周辺の温泉銭湯に入ろうかとも思ったのだが、列車の時刻の関係(大分→熊本の豊肥本線は本数が極端に少ない)でこちらの「手湯」で我慢することに。足湯は全国にあまたあるけれど、手湯って結構珍しい気がする。あちこちあるけど気がつかないだけかな。
  別府駅には駅そばがなかった(似て非なるそば屋「豊後茶屋」はあるが)ので、こちらの売店で別府名物「とり天」を買い、ホームで列車を待ちつつ食べることに。こういうつまみ食い旅もいいもんだ。いつも駅そばばかりだから、たまには他の部分にもスポットライトを当ててあげないとね。
  と言っている側から、大分駅ホーム「梅の家」のかしわそば。この店のそばは、とにかくつゆが美味かった! というのは、たぶん柚子だと思うのだけど、柑橘系の隠し味がよ〜く効いている。柚子は大分とか宮崎とか、東九州の名物だから、この土地ならではの味覚。旅情に溢れる一杯、たまりません! ちなみに、揚げ玉はサービス(入れ放題)です。
  おまけ。大分駅ホームにある、柚子型のベンチ。これを見れば、「大分の名物は柚子なんだな」と、すぐに分かる。そして駅そばを食べれば柚子の味。これぞ、旅の醍醐味だねぇ。
  ふ〜、なんだか、今日は食ってばかりだな。熊本へ向かう列車の中では、大分駅で買った弁当をいただきます。右は普通に幕の内弁当なのだけど、左は何やら風変わり。これは、「田舎風寿司おにぎり」とでも形容したらいいだろうか。商品名は「関のいなか寿司」。「関」と銘打たれていることからも想像がつくんだけど、中には焼きサバなどが入っています。ポロポロ崩れて食べにくいんだけど、味覚的には○。値段も安い。
  この弁当、いわゆる駅弁ではありません。キヨスクで売っていた、普通の弁当。駅弁よりも安くて美味そうだったので、こちらを買いました。たぶん正解だったと思います。駅弁がダメということでは決してないんだけどね、値段が……。
  熊本駅に到着。豊肥本線は0番線ホームに着きます。「0番線」という響きそのものに、旅情があります。
  写真は駅構内のホーム案内板。これを見れば一目瞭然、熊本駅には「0番線」が2つあります。駅の番線表示は、駅舎に近い順から1、2、3……と決められているらしく、1番線よりも駅舎に近いところにホームを新設した場合に0番線が誕生します。熊本駅では、1番線よりも駅舎に近いところにホームを2つ作ってしまったため、このようになったわけです。全国でここだけ……かどうかは定かではありませんが、少なくとも私は初めて見る光景でした。
  今日は、こんなところに泊まります。JR宇土駅から徒歩15分の「富合サウナランド」です。普通の銭湯にムリヤリ仮眠室を増設したような施設ですが、1泊1200円は魅力的。しかも夜間は空いているので、狭いながらも結構快適に眠れました。女性用の仮眠室もありますが、外から見た限りではかなり狭そう。6畳くらいなんじゃないかな……。
  一夜明けて、大晦日。朝から元気に丸天そば@大牟田駅ホーム。この店の丸天は、形状こそイビツですが、とにかく大きい! この食べ応えは嬉しいですね。昨日の門司駅と比較すれば、その違いは歴然です(門司駅を非難するつもりはありません。大牟田がとりわけスゴイだけのことです)。朝からちょっと得した気分になって、今日はいいことが続きそうな予感さえしたのでした。
  久留米へ北上。以前に某テレビ番組の収録に呼ばれて行ったときに、隣の席になった鉄氏に「久留米の駅そば食べました?」と言われて、ぐうの音も出なくなったことを思い出し、その悔しさを晴らすために途中下車した次第。というのは、私は以前にも久留米駅で下車したことがあるのですが、そのときには「この駅には駅そばがない」と結論づけてしまったのです。まだまだ全国を回り始めて日が浅い頃のことで、駅そば探しのコツが掴めていなかったんですね。改札を出て右を向けば、ちゃんとあるじゃないですか。
  これが、久留米「中央軒」のかしわそば。甘めのつゆが鶏肉の旨みによく合っていて、なるほど美味い。
  ところで、中央軒というと鳥栖駅を連想する人が多いと思うのだが、鳥栖の中央軒と久留米の中央軒は別会社が運営している(かつて同じだったが昭和57年に分離・独立)。扱う駅弁もそれぞれに異なっている。ただ、駅そばに関しては味覚的な違いは分からなかった。「同じだ!」と決めつけるのも危険な感じがするが、印象としては同じ。
  鳥栖で長崎本線に乗り換えて、佐世保を目指します。その車中風景がこれ。木製の座席ですね。我々関東人にとっては珍しいんですけど、全国的にはどうなんでしょうか。
  でも正直、固くて座り心地はあまりよくありません。
  佐世保に到着するなり、大きなハンバーガーが出迎えてくれます。佐世保名物・佐世保バーガーですね。米海軍に由来するものですから、超ジャンボサイズで、1つ食べきるのも苦しいくらいです。決まったスタイルがあるわけではなく、市内で手作りされているハンバーガーはすべて「佐世保バーガー」と呼べるみたいですね。食べてみたかったのですが、事前の情報収集が万全ではなく、どこで売っているかとか、どこが美味しいかとかというのが分からず、諦めました。次回訪問時のお楽しみにします。
  JRの佐世保駅は立派な駅舎を持っているのですが、そこからさらに平戸方面へ伸びている松浦鉄道(旧JR松浦線)は、ローカルそのもの。写真は佐世保市の中心部に位置している佐世保中央駅。「中央」駅がこのありさまですからね。一応有人駅ですが、閑散としています。華やかな商店街のすぐ側にあってこの静けさですから、松浦鉄道は苦しいだろうなぁと察することができます。駅そばを求めてこの駅に立ち寄った自分が恥ずかしいです。
  佐世保から、少し歩きます。雪混じりの小雨が降っていましたが、まぁなんとか歩ける程度。他にすることもないので、敢行しました。
  佐世保市の中心部から大塔駅くらいまではあまり面白くない街並み(中佐世保駅付近は面白い。崖の麓に小さな民家があり、中腹を松浦鉄道が走り、上に高層マンションが建っている。恐ろしい街だ)なのだが、早岐駅が近づいてくると情緒系の景観が広がってくる。写真は、「早岐田子の浦」と呼ばれる入江。何が面白いかは、次の写真を参照。
  家が、桟橋の上に建っているんですね。言わば、水上集落です。これに似た水上集落で全国的に有名なのが、伊根の舟屋です。伊根の場合、背後地が急峻な山地で家が建てられないし、なにより漁業の便を考えてのもの。早岐の場合、背後地はそれほど山々しておらず、実際住宅地になっている。また、漁業面を見ても、海上には何隻かの漁船は係留されているものの、舟屋のような直接家の中に船が入れる造りにはなっていないので、さほど便がいいようにも思えない。単純に、街道に面した交通の便がいいところに家を建てたいというだけのことなのだろうか。
  早岐駅付近には、平戸往還跡が残っています。平戸往還は江戸時代に整備された旧街道で、彼杵(現東彼杵町)から日の浦(現平戸市)へ通じている。ほぼ現在の国道205号・35号・204号のコースになる。その随所に、旧街道が残っているわけだ。
  写真だと「いかにも!」な石畳が整備されているが、これは表通りからの入口だけ。奥に入っていくと、普通にアスファルトの路地になる。街並みとしては、「江戸時代を彷彿とさせる」というよりも、昭和中期の懐かしい雰囲気。
  2007年最後の夜は、久留米温泉ホテル湯の坂……に併設された健康ランドで過ごします。大晦日は自宅で過ごそうという人が多いのか、空いていました。ホテルの方は混んでいるのかも知れませんが、健康ランドはガラガラです。正月を健康ランドで迎えることに、皆さん抵抗あるんですかね。
  夜半過ぎから森々と雪が降り、明け方には結構積もりました。早朝、雪見露天風呂を楽しみます。ここの露天風呂には日本庭園風の庭があり、銀化粧のいい風情を堪能できました。
  チェックアウトする頃には雪が止んだのですが、これはほんの序章に過ぎませんでした。詳細は、後編で……。


戻ります。