倉庫35:晴れて自由の西国路ツアー(前編)

  今回の旅は、夜行バスで始まります。東京駅八重洲南口22:30発名古屋行き「青春ドリームなごや号」です。以前に使った大阪行き「青春メガドリーム号」に比べると、車体がずいぶん小さく感じます。ハイデッカー車ですからね。それでも、一応車内トイレ完備だし、隣席まで占領できるほどに空いていたので、快適そのものでした。運賃は、早割り・ネット割りを含めて2940円。JR東海の各駅でタバコが吸えなくなってしまった以上、今後はこういった格安夜行バスを使う機会が多くなってくるでしょう。
  名古屋から鉄道を乗り継ぎ、朝食は山陽姫路駅の「山陽そば」で。名物の「ぼっかけそば」でございます(厳密には神戸名物)。390円。甘く煮込んだ牛すじ肉をたっぷりトッピング。肉の味付けとつゆがよく合っていて、個人的に大好きなメニューです。兵庫県内にはこのメニューを扱う店が結構たくさんあるのですが、店によって味付けや肉の質・大きさ等が大きく変わるので、ぼっかけ巡りもなかなか楽しいですよ。
  三原駅で途中下車。駅構内に駅そばがないことは知っていたのですが、もしかしたら駅付近の商店街などにあるかもしれないと思って。しかし、結果的にはボツ(店なし)でした。以前はホーム上に「浜吉」があったんですけどね、1回も食べないうちに撤退してしまいました。
  で、この写真は、駅前の自販機。三原はタコの名産地なんですね。明石の方が若干形勢有利かなという気もしますが、明石にしろ三原にしろ、瀬戸内海沿岸の街。瀬戸内海全体がタコの好漁場なのでしょう。
  昼食は、西条駅で。この駅、以前に訪れた際に「駅そばナシ」の烙印を押したのですが、その後改札外に中国地方でお馴染みの「味一」が開店しました。そのニュースを聞いて、食べるために下車しました。
  写真は、卵焼き・椎茸(ネギの下に隠れています)・揚げ玉・カマボコをトッピングした「かやくそば」。これも、中国地方ではポピュラーなメニューです。そばに卵焼きというのは一見ミスマッチですが、さほど違和感はないです。出汁巻き玉子とか、類似した味覚の料理がありますからね。370円。値段のわりに見栄えが良いメニューだと思います。
  続いて、岩国駅でも一杯いいただきます。改札内外両側から利用できる「味庵岩国」(看板は「あじあん」となっている)で、山菜そばを。この店も、近年オープンしたばかり。広島県西部と山口県南部は、駅そばが元気ですね。
  岩国駅には、山陽本線のホームにも古くから駅そばがあるのですが、どうやら経営業者は同じみたいです。ただ、メニュー・味・値段等はすべて異なります。ホームの方が安く、改札脇の方が美味い。ホームの方が早く食べられ、改札脇の方が長居できる。何を求めるかによって使い分けましょう。ちなみに、写真の山菜そばは390円。
  一気に九州に突入します。で、この写真は電車の車内中吊り広告。公共交通機関では、ICカード乗車券がすっかり定着しました。ところが、地域によって名称等が異なり、なかなか「全国共通で使用できる」というICカードは開発されませんねぇ。全国共通になって初めて意味を成すように思うのですが。
  JR系のICカードは、関東では「SUICA(スイカ)」ですが、関西では「ICOCA(イコカ)」になります。そして、九州では「SUGOCA(スゴカ)」です。ちゃんと関西弁(行こか)、九州弁(凄か)になっているのが面白いですね。
  小倉の健康ランド「バーパス」で一泊。翌日は、朝から北九州市内を練り歩きます。写真は、小倉駅前で見つけた森鴎外住居跡碑。明治の文豪は、こんな駅前に住んでいたんですね。もっとも、当時はまだ鉄道がなかったわけですけど。だいいち、昔の鉄道は蒸気機関車ですから、駅前が必ずしも一等地だとは言えなかったかもしれません。煙くて煙くてたまらなかったことでしょう。電化された後も、線路を敷き変えたわけではないですから、今でも市街地の中心部から外れたところにある駅が結構多いですね。
  小倉駅は、JR各線とモノレールが接続するターミナルです。立派な駅ビルを擁しているのですが、その中にモノレールが吸い込まれていくさまは、なかなかに異様です。聞こえよく言うなら「近未来的」でしょうか。
  九州の大動脈・国道3号は交通量が多いばかりであまり面白くない道なので、別ルートで戸畑駅前から若戸大橋経由で若松へ歩きます。
  写真が、若戸大橋。戸畑駅から徒歩5分ほどのところにあります。入江が深く入り込んだ洞海湾を渡る橋ですね。この橋は自動車専用橋で歩行者は渡れません。しかし、陸路を迂回すると途方もないほど遠回りになります。そこで、歩行者救済策として渡し船があります。今回の旅の最大目的は、この若戸渡船に乗ることでした。写真右下に見えている粗末な建物が、若戸渡船の乗り場です。
  乗り場の建物内は、こんな感じ。自販機で切符を買い、有人改札を通ります。硬券切符だったら記念にもう1枚買おうかと思いましたが、残念ながら普通の切符でした。運賃は、片道100円です。
  こちらの船が、若戸渡船でメインに運航している「くき丸」。データ上は「定員110人」となっていますが、とても110人も乗れるとは思えない、小さな船です。船室内の座席は、せいぜい15人分くらいしかありません。デッキに立ち乗りすることもできますが、自転車等がたくさん積み込まれている(別料金で自転車も航送できる)ため、狭いです。さらに、着船時に波を被る危険性があります。航行時間は、およそ3分。あっという間に着いてしまいます。ちなみにこの写真は、若松側の渡船乗り場付近から撮影しています。
  渡った先の若松は、レトロな街並みです。結構古い街なんですね。「若松」というと会津を連想する人が多いと思いますが、元祖「若松駅」はこちらにあり、会津にあるのは「会津若松駅」と、いかにも後からできました的な冠語がついていますので。実際には、会津若松の方が先に市制施行している(1899年。こちらの若松は1914年)んですけどね。会津若松も当初は「若松市」を名乗っていて、1955年に「会津若松市」と名称変更するまでは、「若松市」が2つあるという状態でした。ちなみにその後こちらの若松市は合併で「北九州市若松区」となり、「若松市」はなくなってしまいました。写真は、大正8年築の旧古河鉱業若松ビル。  
  若松駅前には、SLが展示されています。「クンロク」の愛称を持つ9600型ですね。大正6年製で、昭和48年まで現役で活躍していました。
  現在の若松駅舎は味気ないコンクリート造りのものになってしまいましたが、1984年に建て替えられるまではファンが多く訪れる名駅舎として全国的に有名でした。駅前広場にある円形に整地されたエリアは、かつてのターンテーブル跡でしょうか。
  若松駅構内(改札外)には、駅そば「東筑軒」があります。正直、この駅は石炭の時代が終わってから急速に廃れていった駅で、利用者はかなり少ない(1日当たり1500人程度。バス便の方が便利なので、地元住民は主にバスで移動している様子)ので、駅そばがあるとは思っていませんでした。駅舎が建て替えられ、利用者が減り、どんどん「つまらない街」へと変わっていく中で、ちょっと救われた気がします。写真は、ごぼう天そば(400円)。太めにカットしたものを単独で揚げています。牛蒡そのものの食感・風味が好きな人にはオススメ。
  若松から、洞海湾の北岸に沿ってさらに歩きます。写真は、本城駅付近の桜並木。満開には少し早いかな、というくらいの八分咲きでした。川(名称忘れました)の反対側にはJR筑豊本線が併走しているので、桜の時期は車窓からの眺めもなかなかいいだろうなと思います。
  若松駅は建て替えられてしまいましたが、折尾駅は大正6年築の古い駅舎が現在も現役で活躍しています。名駅車の名を恣にし、鉄道ファンが多く訪れます。
  しかしながら、現在、折尾駅付近の高架化事業計画が進められていて、近い将来にはこの駅舎も姿を消す予定になっています。文化財級の駅舎なんですけどね。外観だけでなく、レンガ造りの通路とかも含めて。短絡線(鹿児島本線から筑豊本線に直通する列車)のホームが離れていて、改札を一度出なければならないなど、不便な面もありますが。せめて、駅舎としてではなくても、保存してくれると良いと思うのですが、JRは保存案に消極的なのだとか。
  駅前ロータリーを越えて商店街を分け入ったところに、旧西鉄北九州線跡(平成12年廃止)が残っていました。この3連アーチ橋は特殊なもので、内壁のレンガが斜めに填め込まれている「ねじりまんぼ様式」と呼ばれています。この様式のものとしては、国内最大規模(アーチ径)を誇っています。現駅舎と併せて永久保存してほしい文化財ですが、果たしてどうなりますことやら……。
  当初の予定では折尾駅までで歩きやめるつもりだったのですが、体力的にも時間的にも余裕があるので、もう少し歩くことにしました。で、水巻駅前の「ふな津」で丸天そば(370円)を。駅の外にある店は、こうして歩いて(または車で)訪問しないことには、なかなか発見できません。その意味でも、歩くことに意義があるんです。
  この店では、全メニューうどんよりもそばの方が20円高く設定されています。九州では、さほど珍しいことではありません。あと、九州らしいなぁと思ったのは、麺の替え玉ができるということでしょうか。こちらもそばの方が20円高く設定されています(100円。うどん80円)。
  さらに西へ歩き続け、遠賀川を渡ります。結構大きな川ですね。左が国道3号の遠賀川橋、右はJR鹿児島本線の鉄橋です。
  結局、遠賀川駅まで歩きました。この駅には駅そばはなかったのですが、改札外にたい焼き店がありました。食べたい衝動に駆られましたが、水巻で丸天そばを食べたばかりで腹に余裕がありませんでした。でも、結構流行っている様子です。次回以降に、ちょっと途中下車して食べてみたいと思います。
  遠賀川から電車に乗り、鳥栖駅へ。かねてから気になっていた「中央軒」のあすぱら天そばをいただきます。420円という値段のわりに、見た目はちょっと貧相。しかし、アスパラは地元佐賀県産にこだわっているという事情を加味すれば、納得。むしろ、見た目のハデさよりも地産地消・地元愛に重きを置く姿勢は高く評価したいと思います。
  仕事の取材のつもりで訪れ、食べたのですが、帰ってから写真を見たら光が嫌な写り込み方をしていたので、この写真は使わないことにしました。露出店での撮影は、タイミングによってはすごく難しいです。


戻ります。